孤独になっても夢があれば 夢破れても元気があれば 元気がなくても生きていれば 「生きていなくても」
「えー、面白い話じゃない。だって誰も、地底全てに伝えようとしていつも喋ってる、ってわけじゃないでしょ?それなのに、噂はすぐに広まっちゃう。でもそうやって伝わった話は、ほとんど正しくなくなって……。なかなか興味深い現象だと思わない?」
「……いや、そういう事じゃなくて」
「言葉だけでさえ、それだけ興味は尽きないのに。私の目の前には、それを自分の力に変えた妖怪がいる。ああ、実にインタレスティン!ねえ、ぬえちゃん。」
「そうじゃなくて。」
思わず『妖怪は変わらないもの』という自説を撤回しかける。おかしいな、さっきまでお淑やかな少女と喋ってた気がしたんだけどな。そうか、こいつ妖怪じゃないのかな。
頭は猿体は狸尾は蛇手足は虎の姿にて鳴く声鵺にぞ似たりける
「あら、その恐ろしい物を操っている妖怪が、そんなことを言うのね」
ふいに、こいしがよく通る声で言った。小馬鹿にするのではなく、まるで疑問をそのままぶつけるよう。
「……何の話?」
「『頭は猿、躯は狸、尾は蛇、手足は虎のごとくにて』……」
その言葉には聞き覚えがあった。もう千年以上昔の話。私が最後に地上を見た日だ。たしかその先は……
「『鳴く声は鵺にぞ似たりける』。って、それ私じゃない」
「その通り!この言葉があったからこそ、貴女は『とら――』」
「!!」
瞬間、体が反射的に動く。
この体となってから身につけた条件反射が、私のやるべき事を明確に示す。その先を、言わせてはならない。
コンマ一秒。腕の蛇から素早く取り出した種を、私は躊躇いなく指で潰した。辺りに見えない何か――が生じる。
コンマ二秒。
「『――■■■』から『鵺』になった。……あれ?私今、なんて言った?」
「……そうね。確かにそう見たら、私が言葉を操ってると見られてもおかしくはないわ。」
「でしょ!」
「けど、私の能力はあくまで『正体不明を操る程度の能力』。その言葉は、私の鳴き声を人間達が勝手に解釈しただけよ。私は、関係ない」
「そうやって人のせいにするー。あなたも立派な、昔ながらの妖怪よ、ぬえちゃん」
「まるで貴女は違うみたいじゃない。どうなのかしら?放浪者の覚りさん。」
「……人と言いたいことを言い合えるって、とっても良いことよね!」
「こっちを見なさい、こいし」
人類は十進法を採用した。
世界は性善説を採用した。
要するに、「人は生まれつきは善だが、成長すると悪行を学ぶ」というのが性善説、 「人は生まれつきは悪だが、成長すると善行を学ぶ」というのが性悪説です。
人々に希望を与えるということから考えると、善であるが、産みの苦しみを母親に与え、夜泣きで良心を苦しめることから考えると悪である。
----やっぱり I was born なんだね----
父は怪訝そうに僕の顔をのぞきこんだ。僕は繰り返し
た。
---- I was born さ。受身形だよ。正しく言うと人間は
生まれさせられるんだ。自分の意志ではないんだね----
―ほっそりした母の 胸の方まで 息苦しくふさいでいた白い僕の肉体―。
I was born 吉野弘
1
>―I was born さ。受け身形だよ。正しく言うと人間は生まれさせられるんだ。自分の意志ではないんだね―
という私の発言を受けて、父は「生命の誕生に意志は介在しない」と「私」が理解したように感じた。
確かに誕生は生まれる者の意志は介在しないが、親が誕生してくる子に託す希望や願い、それは自らの命を犠牲にしてでも託しているのだということを、次の世代を誕生させるためだけに命を削るカゲロウに喩えたからではないでしょうか。
2
>―ほっそりした母の 胸の方まで 息苦しくふさいでいた白い僕の肉体―。
この最後の一連で、カゲロウのような肉体の母に宿る、誕生前の自分を想像しますが、これは父の言おうとしたこと、すなわち自らの命を削ってでも託した亡き母の願いというものを自覚したことを表現しているのだと思います。
強大に信頼される人間は成果を元に成り立つ