「本当に大丈夫なのか、彼女は」
薄暗い部屋の中、男は管理パネルを操作しながら呟いた。
「軍曹が武器を持たせるって言ったんだ。問題ねえよ」
同じく部屋にいたもう一人の男が、銃を構えながら言う。ちょうど最初の男の背中を守る恰好だ。何が来てもいいよう、臨戦態勢を保っていた。
やがてパネルに目当ての情報が表示される。現存する装備種と数の情報が一斉にまとめられ、パネル上に浮かび上がった。対象兵科は『ウイングダイバー』。
「そうじゃなくてな……ち、運が無い。倉庫はほぼ壊滅だ」
「なんだと? くそっ、無駄足かよ」
パネル上の情報はその殆どが赤色だ。その装備に現在アクセスできないことを示している。男は再度パネルを操作し、赤色の装備をフィルタリングした。残ったのは三つだけだ。
「全部じゃないさ。あるのはヘルメットとD兵装と……何だ、これ?」
「何でもいい。向こうで決めればいいんだ、全部一個ずつ持っていこうぜ」
「そうするか」
三つを選択し確定を押すと、選択した装備がガラスの向こうで緑色の箱に詰められていく。搬出口から出てきたそれを台車に乗せ、二人は部屋を出た。
通路は薄暗く、非常灯が僅かにそれを赤く染めていた。規則的に小さくブザーが鳴っており、
「静かだな」
「ここは軍事地下施設だ。静音性や振動吸収性を重視している」
「山奥の基地が、何だってそんなこと気にしてるんだ?」
「野生動物への配慮だそうだ。今日はそれが悪い方に出た」
ブゥン、ブゥンと響く機械音より大きく、台車がゴロゴロと音を立てる。他には何も聞こえない。演習も、訓練も、談笑も、何も。いつもどおりの道のりを、二人は最大限に警戒しながら進んでいく。
「
「つまり隙間が少ねえってことか。……なあ、ダクトに毒を仕込まれたりしねえよな」
「バカ言うな、それじゃ乗り込んできた味方ごと殺すことになる。
やがて搬出口から緑色の直方体が出てくると、コンベアに乗って自動的に台車へと運ばれていく。
「ほお、これは便利だ」
「どうなってんだ? そっち見るわけにはいかねえし、気になるな」
「もう終わったよ。軍曹のところへ戻ろう」
「おいおい。嘘は止せ……って、マジかよ」
仕事を終えたコンベアが鳴り止む頃、銃の男の横を台車がすり抜けていく。そのまま部屋を出て行くのを、銃の男は後ろを警戒しながら追う。
「暴発させんなよ。何が引き金か分かったもんじゃない」
「そこまで俺達とかけ離れた武器じゃないさ。お前こそ、しっかり護衛してくれよ」
「分かってるよ」
ドアを開け、半身を隠しながらもう一人の男が左右を確認する。228の通路は広い。見通しがいいため、待ち伏せられているならすぐに分かるだろう。敵がいないことを確認すると、もう一人の男はハンドサインを出しながら、大広間へと走っていった。ドアを蹴り閉め、台車がその後を追う。ふと、ドアが閉まる音に振り向いた。ドアの上のパネルは、回転する非常灯で時折赤く照らされている。
『地上武器倉庫アクセスインターフェース』。パネルの文字は、入った時とただの一文字も変わらない。そんな当然の事を前にして、男の足は一瞬止まった。
「おい、1-4! 設営は終わってるみたいだ、急ぐぞ!」
「早いな! さすがだ!」
そしてすぐに歩き出す。一歩踏み出すごとに忘れていく。ふと浮かんだ考えは、尊敬や焦りや台車の音に掻き消されていった。
「レンジャー1-4! 戻りました!」
大広間はまだ生きている照明が煌々と照らしていて、今が非常事態である事を
「レンジャー1-3もだ。んで、どうだ? 民間人の特訓はよ」
ここはベース228。世界規模の軍事組織、EDFの所有する軍事基地の一つだ。街から山をいくつか越えたところにあるこの基地は、奇妙なほどに最新型の設備が整っている。耐久性、効率性、取り回しの良さ、etc。どこから見ても一級品のその技術群は、こんな片田舎にあることが信じられない程だ。