up:: 蓬莱人形フランドール説第一項第二話
down:: 蓬莱人形フランドール説第一項第四話

ボクらはすっかりこの場所での生活にも慣れ、気ままな暮らしを始めていた。

 廃洋館は見た目こそ古ぼけていたものの、生活用品はそっくり残っている。服は着れるし、カップでコーヒーも飲める。毎朝干せば、ちゃんとふかふかのベッドで眠ることも夢じゃなかった。

 森の恵みは、ボクら八人をお腹いっぱいになるまで癒やしてくれる。木の実は豊富で、茸も生えている。廃洋館の近くには、これもまたサグリが見つけた湖があるから、水の心配はない。魚だっているし、少し水源を辿れば沢蟹だって取れた。自由な生活はまるで楽園にいるようだった。

 けれどただ一つ、できない事があった。森から出ることだ。

この部分の問題点
サグリが出ていってから、パーティが開かれていること
サグリハブでパーティやると思えないし、やっぱサグリが出ていったのは好奇心に従った探検、ひょっとすればメイかケイによる探検の唆しがあったのでは?
危険なのはそうだが、危険だからって黙ってればもっと危険になる。サグリがそれをどうにかできる信頼がこの二人のどちらかにあれば、一人で行っても問題ないか。というかこいつが一番の体力お化けで他がついてっても追いつけないで危険とか無いか。それを全員が知ってればここからでもなんとかなるか?
でもこれ黙ってたら正直者じゃないし、喋ってたら結局サグリハブパーティだぞ。悩むケイかメイを見て自分から行ったくらいはあるんじゃないか。その思いを黙ってたら正直者じゃ、例えば思いを打ち明けてもすげなく断られたとか? それでも行きたかったサグリ、二人の分からず屋と言って外へ。この諍いが他に知られてなくて、かつそれが原因だと二人が思ってなきゃパーティを開くのもおかしくは……いやあ流石に思い至るだろ、いくらなんでも。元から半日いないのが当たり前だったとか、セットでレンが消えてるからそっちの意味かと思ったかならまだわかる、分かるんだけど阿片乾燥させるのに何日かかけてるからいくら何でもこれで帰ってこなかったら怪しむ。限度があるだろ。だからこそパーティで誘き出そうと思ったか?
まあサグリが見えるくらいに眩しい光を見せるのが主目的で、パーティは副目的ならいい……のだろうか。芥子の乾燥時間で山まで登った想定なら、離れていても一つって意味で光を見せればそれでいいのか。サグリ側のパーティ感が無い。そこはあれだ、誰か空気読んで阿片か酒か送っとけ。

「今日こそ、外を見つけに行くよ」

 七日目の夜明け前。眠れずに洋館の広間を彷徨いていたボクに、サグリはそう言った。

 上流へ向かうんだ。まずは山から全体を見下ろす。明かりが見えたら一番いいね。他にも面白いものがあったら、沢山覚えておくよ。帰ってきたらいっぱい話してあげる。

 サグリの背には大きな背嚢があった。よく見ればそこにはいくつか見慣れない装飾品がついていた。気になって見ているとサグリが話し始める。この遠出を控えて、一人一人に相談と挨拶をしていったときに貰ったのだという。日本ではこんな風に遠出する人に願いを込めて物を渡す風習があるらしい。
 いつの間にそこまで染まったのだろうと思いながら、ボクはポケットを漁った。小さな翡翠の装飾品が出てきた。たぶん実家にあったものだろう、ボクはそれを背嚢の紐に引っ掛けた。サグリは一瞬目を丸くした後、くしゃくしゃの笑顔で礼を言った。

 
 それじゃあ、行ってきます。そう言って、サグリが玄関を開ける。そして振り返らず、彼は門を出ていった。草を踏み、森へ入り、足音が消えるまで、ボクは手を振り続けた。そうして一切の痕跡が消えてから、ボクはドアノブに手をかけた。

 

 だから、聞こえるはずが無かったのだ。

 なのに、ボクには確かに、

 『骨が折れた音』が聞こえた。

あるけ、インの方で走るから

 いつもなら気にも留めない。この場所に来てから、何度か狩りを見た。その時に聞こえた音が耳にこびりついて、幻聴でも起こしたか。あるいはメイが森に罠をかけていて、捕まった動物が哀れ一撃で絶命したか。どちらにせよ、ボクが気にかける事じゃない。

 けれどボクはその日、既に歩き出していた。その音はサグリの向かった方角から聞こえてきた。ただそれだけで、ボクは気になってしまったのだ。森の向こうで何が起きたのか。その向こうに何があるのか。昔サグリが言っていた、『好奇心に突き動かされる』なんて現象が本当にあるとするなら、このボクの今の衝動を指すのだろうか。どこか他人事に、ボクはそう考えていた。

 歩く。歩く。
 木の根で足場が悪い場所だ。ボクは何度も足を取られ、体をよろめかせた。それでも足を止める気にはなれなかった。そこかしこが擦り傷だらけになっても、軽く息を切らしても、音の方向へ進む。複雑に入り組んだ場所を、勢いを付けて跳び越した。
 やがて、川の向こうに人影が見えてきた。サグリの身体能力にしてはまだ近い所にいる。それでも、それはサグリのはずだった。翡翠の装飾が背嚢の影から覗いていた。

ここがないと、好奇心殺害〜弾幕勝負の隙間がなさ過ぎて、元気満々の妖怪と出会う。それでも他に獲物を譲る予定ならムシられそうだけど。
それ以上に展開的に急展開が多すぎ。

 跳ぶ。跳ぶ。
 複雑に入り組んだ場所は跳び越える。やがて川の向こうに人影が見えてきた。サグリの身体能力にしてはまだ近い所にいる。それでも、それはサグリのはずだった。翡翠の装飾が背嚢の影から覗いていた。

 さぐ、

 それは、水だった。
 朱色に染まった水粒が、ボクの全身を叩く。

 その水は、川向こうに置かれた奇妙な噴水から噴き出していた。
 噴水を支える二本の棒。薄いながらも、固く引き締まった本体。そこに引っかかった背嚢。その左右からぶら下がる棒は、先が五つに別れている。

 水は、川の水よりもぬめっていて、気をつけないと転んでしまいそうだった。
 水は、本体の上から勢い良く出て、朝焼け空を朱に塗り替えていた。
 水は、鉄の匂いがした。

 これは、血なんかじゃ、ないはずだ。
 嘘では?
もっと冷静に記述してもいいのでは?

 どれだけ経ったのだろう。視界が明滅する。身体が震える。半刻にも、半日にも思えるほどの間、ボクはただそれを眺めていた。不思議と考えが纏まらなかった。やがて湖の方から物音が聞こえ始めたので、ボクは幽鬼のようにゆらゆら揺れながらそっちへ向かった。反射的な興味だった。

 湖の上には、見た事も無い雨が降っていた。大小様々の光り輝く玉が、方向も自由に飛び交っている。よく見れば玉だけではない、針のように細い粒もあれば、紙切れのようなものも飛んでいる。その雨の中心に誰かが居る。
 白の小袖に、赤の袴。赤い帽子を被り直して、また雨の中を飛んでいく。服は脇が開いていて、帽子には星型の飾りがついていた。彼女は雨の中の誰かと戦っているようだった。小袖が朱く濡れていた。

 誰かは複数人いた。彼女は雨を巧みに操り、次々と叩き落としていく。落ちていく誰かには集中的に雨が降り、後には焼け跡だけが残った。すぐに最後の一人だけが残った。

 雨は激しさを増していく。みるみるうちに恐ろしい嵐となったそれは、雨の中の二人を光で覆い隠した。やがて一方が嵐の下に落ちていった。少しずつ止み始めた嵐を貫いて、もう一方も湖の向こうへ消えていく。ボクは初めに落ちたほうへ駆け寄った。誰かが岩に凭れていた。

「……あなた、は」

 それはさっきの帽子の子だった。ひどい有様でもそれは分かる。内臓まで切られた腹は言うに及ばず、俯いた顔には深々と傷が刻まれ、削がれた頬から白い歯を覗かせている。力なく垂れた右袖には厚みが無く、代わりにどくどくと溢れる血が池を作っていた。ボクは何が起きているのかと聞いた。

「妖怪……退治、よ。人間を害した妖怪は……私が、巫女が退治しなきゃいけないの。それがここの決まり」

 彼女はふらふらになりながらも体を起こそうとしていた。ボクが手を貸すと一瞬躊躇ってから借りて立ち上がる。けれどすぐにまた膝をつく。

「けど……私、もう駄目みたいね。あーあ……まだ残ってるのに」

 彼女が最後に落ちていった誰かを睨んでいる。そこにいたのは少女だった。赤の着物を着て、緑の髪を振り乱し、鎌を持って倒れている。そんな少女が、大きな桶から上半身だけを出して地面に転がっている。あれが妖怪なのだろう。

「……ねえ。あなた、この後暇?」

 暇かどうかというと、確かに暇だった。生活は満ち足りている。仕事についても、サグリが誰かに――おそらくは、あの怪物の手にかかって死んだことを伝える。それくらいだ。少し遅くなっても、問題ない。

「そう。……じゃあ、後は頼んだわ」

 彼女がそう呟く。
 
 不意に、世界が揺れた。

 じわじわと頭の中心に熱が集まる感じがする。痛みが反響しているみたいに大きくなっていく。呼吸は酷く荒くなり、自分の鼓動の音だけが耳鳴りのように煩く響いている。ここを離れようとボクはただ脚を動かした。けれど動かない。

 暗くなっていく視界には、彼女の左腕がボクの腕を握り潰さんとばかりに強く掴んでいるのが映っている。触れられている場所はまるで五寸釘の筵を巻かれたような感触で、この体調を生み出している原因だと考えるには十分だったんだ。引き剥がすためにボクはその腕を力の限り蹴った。見たこともない方向に曲がった腕は、それでも握るのをやめなかった。痛みが増していく。目が熱い。

「――――ごめんね」

 帽子の子は、そう呟いたのだろうか。目も耳も馬鹿になった今のボクには、その意味を受け取っても疑わしいままだった。

 釘が解ける。少しだけマシになった体調が、ボクの行動を許して《《やっている》》ように思えた。さふ、という音でようやく彼女が倒れたことに気がつく。うつ伏せに倒れた彼女の首にボクは指をやった。何の振動も感じられなかった。よろめきながら立ち上がり、倒れないように一歩踏み出す。

 途端、つま先から頭まで大きな針が貫いたようだったんだ。そこに縫い留められたような錯覚を起こして、ボクはしばらく動けなくなった。代わりに思考が回る。

 もう帰ろう。体が痛い。まっすぐ歩くこともこなせない。何なら、ここで少し休んでいけばいい。朝靄がかったこの湖の空気が、熱った身体を癒やしている。ボクはそれに従いたかった。ここで寝転んでしまえば、ざっと十六時間程は泥のように眠りこけられる。そんなことはどうでもいい。ともすれば今日の出来事はすべて夢かもしれない。思えば昨日の夜からボクは眠っていないのだ、今倒れても不思議じゃない。十分に休んで、それからまたいつもの気楽な生活に戻ればいい。戻れれば、それだけで良かった。

 けれど――ボクは、その一切を無視した。

「……ああ」

 生まれ変わったような気分だった。体中の痛みを、昂揚感が上回る。体はどこまでも軽く、空を飛んでいけるようにさえ思えた。倒れている妖怪に近づく。

「……」

 妖怪はボクを見て口を開いたが、そこから言葉は出てこない。代わりにがぶがぶと泡立った血が流れてくるだけだった。よく見れば、彼女の着物は所々が白かった。元々は白だった着物を、血が赤色に染めていたようだった。その血は喉からだけでなく、彼女の体中からも湧き出していた。彼女の肢体は紫に染まった場所もあれば、針に埋め尽くされ血が細く筋を描いている場所もある。

 ボクは彼女の傷を数えた。なんとか足りることを確認して、彼女に背を向ける。そして巫女の死体の前に立ち、ボクは懐からナイフを取り出し振り上げた。

「ストップ」

 その手は、誰かの手に抑えられていた。いつの間にか、ボクの後ろに誰かがいる。触れれば折れてしまいそうなほどに細い指なのに、それは万力に抑えられているみたいに強い力だった。

「誰だ?」
「好きなように呼びなさい。それより、貴女は一体何をしてるのかしら」

 ぎりぎり

「治療だよ」
「……それはただの死体よ。生死の境界を越えたもの」
「そうだね、これはただの死体だ。だから布を貰うんだ」
「……」

 ぎじっ

「ここまで浅ましいとは。期待外れでしたわね」

 ゴリゴリ、プチプチ

「質問は終わりかい? じゃあボクから頼みがあるんだ。布を切ったらある程度は血を落としておきたい。そこの湖で布を洗ってくれないか。その間、ボクは針を抜いていくよ」

 瞬かせ

「何を言っているのかしら? それではまるで、あの妖怪を助けるように聞こえるのだけれど」
「助けるよ。そういうものだろ」
「……博麗の巫女から、退治を依頼されたのではないのかしら」
「この子かい? されたよ。だから助けるんだ。死なれたら退治できないじゃないか」
「……」

 手を離す

「……はあ。おかしな奴が送られてきたものね。ちょっと待ちなさい」

 岩の裏手から包帯

「包帯なら用意するわ。だからまずは針を抜きなさい」
「ありがとう」

「さて。話せるかな」

「……ぁ……り」
「話せるんだね。よし。じゃあ質問しようか」
「待ちなさい」

紫驚き

「何だい」
「いや、そりゃ止めるわよ。その状態の奴に何を話させるのよ」
「今日背嚢を背負った子の首を切ったかどうか、だけど」
「返答次第でどうするつもりなの」
「退治するかどうか決めるよ」
「今更?」

「あの子はこう言ったよ。人間を害した妖怪は巫女が退治する。だからって、目の前の妖怪が人間を害したってことにはならないだろう」
「……遅いわ。遅すぎる。あなたは妖怪を舐めているわ。その質問の隙があれば、貴方を三度は括り殺せる」
「そうなんだね。それで、切ったのかい?」
「待ちなさい」

「何だい」
「今触ろうとしたわよね? どう見ても絶対安静の奴に何しようとしたの?」
「揺さぶる気だったよ。もしかして、ボクに気付いてないのかもしれないからね」
「分かったわレン、私がよしって言うまで何もしないで。いい?」
「無理な相談だよ。心臓は止められない」
「……どうやってこれを制御してたのかしら、あいつらは」

「キスメ。一度息を止めなさい。今日、リュックを背負った人間を殺したなら息を吸って。殺してないなら吐きなさい」

「なるほど。良く分かったよ」
「気は済んだ?」
「いやまだ。キスメ、君の仲間は同じように人を殺した事はあるのかい?」
「……」

「キ」
「無いわよ」
「君に聞いてないよ、張三」
「貴方はもっと裏を読みなさい。私がその仲間ってことよ」
「……ああ」

「それじゃ、アサが気付かなかったのは君の仕業か」
「そうよ。初めまして、レン。私はメアリー。貴方達の命を狙っている、妖怪のうちの一匹よ」

「好きに呼んでいいんじゃ」
「それでも張三は無いわ。メアリーにしなさい」
「そうか。それじゃあメアリー、今度は君に質問しよう」
「答えられる範囲なら、どうぞ」

「あの帽子の子が撃っていたような弾は、どうやったら出るんだい?」
「……貴女、まさか今から習得するんですか?」
「見た限り、妖怪の体を一片も残さず消したのはあの弾だ。あれを退治と呼ぶのなら、帽子の子がそれを望んだなら、ボクにもそれが撃てるんだろう」
「無理です。あれは、あの子が十年頑張ってようやく習得したもの。貴女がいまどうこうできるものじゃない」
「そうなんだね。それで、どうやって撃つんだい」

光を失った瞳
憂慮の目

「……それが撃てないあなたに頼んだなら、きっとそれ以外の退治を、あの子は望んでいたのではないかしら」
「それ以外?」

「好きにやってみなさい、レン。あなたの思うままに」

 ちょっと考える
 桶に近づく

「な……にを……」
「ふっ」

 蹴り飛ばし
 ボロボロの桶は粉々

「あ」

 声にならない嗚咽
 ぷつりと糸が切れるように倒れる

「うわぁ」
「これで終わりだ」
「……どうして、桶を壊したの?」
「なんとなく」

 だんまりゆかり

「ただ、退治ごっこでいいならこれが一番な気がしたんだ」

ほんの少しだけ、光が宿る

「でも、やっぱりしっくりこないな。ねえ、メアリー」
「何かしら、レン」
「君ら妖怪と取引がしたい。連れてってくれるかい」
「いいわよ」

 隙間を開く
 気づいたけど間に合わない

「それでは一名様、ご案内」

紫が出てくるのは、こいつらを監督してるから
正直村が多少なりとも脅威だと思ってるから
だが多少なりとも脅威なら後で逃さない

監督しなくても、博麗の巫女育生に苦労してるなら監視くらいつけるだろ
でもそれで何か起きるかって言うと……うーん。

融通無碍

こうとうりょくしゅ

理想は明確で手段クソ、結果プラン立てがクソ
パターンを見つけられないから手段はクソ、ただし教育で覚えたパターンは使いこなせる
あくまで見つけられないのが問題であり、パターンが存在すればすぐに適応できる
パターンに沿う楽しさは知ってるから、確実に理想に近づいてるから……じゃなく、本当にパターンに沿うことそのものを楽しんでいる。

この存在にパターンを見つける目である博麗力が入り、どんどんやべえことに
さらに生来の妖力と自重トレーニングを始めるので、どっちも時間をかければかけるほどバケモノじみた力を持つ
これ再生力が折れたら成り立たない理屈だが。こいつが一番おかしいの、パターンに沿うこと以上に再生力では?

キスメはどうしよう。こんなん持って帰っても脅威度が上がるだけだし、ほっとくのが一番か。

湖の向こうにアサが、最も早起きな彼が見えた気がしたんだ。

二日目
生きるのに慣れた正直村
森からは出られない
早朝、外に出ようとする好奇心
ちゃんと周囲には挨拶しとく
眠れなかった美しい、ロビーでウロウロしてて遭遇
好奇心に遭遇、挨拶ついでにポッケから家の形見取り出して紐づけ
特に深い意味はない、周りがアクセサリ巻いてたから
門から出ていく
音を聞く美しい
走り出す
ここがあんま早いと妖怪が逃げられないし、それを超速で察知する巫女がバグる
首飛んだ好奇心を発見、しばらく見惚れる
また音を聞く、行くと湖で弾幕の雨
巫女と好奇心殺した妖怪
それと桶づくり妖怪、退治実例用
双方撃ち落とされ、片方に、巫女に近づく
巫女=ピエロに力を貰う
妖怪退治の話
ピエロ事切れる
生来の妖力を消しまくり体調不良、無視して進む嘘つき
妖怪に近づく
大怪我
巫女服を切り裂いて包帯作成を思案
紫登場
ただ布を盗んでいくつもりかと勘違い、手をへし折りかける
無視して助け方のパターンを叙述する、ただ従うために
退治は生きてないと出来ない?
生きている妖怪に巫女がぶつかる、というのが大事
悪意はないので手伝う紫、包帯を引っ張り出し、自分では触りたくない巫女の針を抜かせる

キスメ回復
会話はほぼ不可、体の中は包帯巻けないしな
そもそも包帯でどうにかなる傷しかこの盗賊団は負ったことが無いので、どうあがいても美しいの治療スキルはそこ止まり
美しいの質問
内容は好奇心を切ったかどうか
紫止める
どう見てもキスメは喋れない状態なので
返答次第では退治しない、「人間を害した妖怪を巫女が退治する」ことが大事なので
なお紫は思うことがあるので否定的
サラッと流されるけど
返答返ってこないので、揺さぶろうとする
紫止める
良しと言うまで何もするな
心臓は止められないので無理
仕方なく紫、呼吸の程度で意思疎通
結果は黒、人間を害してる
別に嘘を吐くこともできるが、目の前の妖怪がメアリーじゃなく紫であることは察しているので正直になる
隠しても無駄だし……
次の質問
仲間が人を殺したかどうか
池向こうの早起きがこちらに気づかない違和感はあったので、他の協力者が居ることをパターン的に予想
これに正直に答えると紫にこいつの退治が及ぶので答えられない、でも黙ること自体がそうであると言ってるようなもん
仕方なく紫が助け船、とはいえ協力者全員に退治を差し向けるだけだが
キスメ@絶望中
ついでに名乗り、まだメアリーってことにしとく
自分は偽名なのに、キスメは本名呼ばれる
加速する絶望
退治
できない
なんかぐっとやれば弾は撃てると思ってた、なのでメアリーに訊く
まだ初期でパターンを見切る目が育ってない。
メアリーは遠回しに不可能だと言うが、それでもあきらめ無さそう
他の可能性を見せろと示唆
そこで死んでる巫女は、博麗力を自分で譲渡したように相手や自分を操作する技術に特化した
境界能力としては近いが、上からの支配なので楽園には程遠いし、結局退治手段として全殺しに頼るしかなかった
そんな状態がここ何代か続いてるので、ちょっとネガった紫
いきなり博麗力を徴収しなかったのも、新しい可能性にちょっと期待してたから
桶を蹴り壊す美しい
ドン引く紫
紫はこの桶が他に消されてたあの妖怪の形見であることを知っているので引いてる
退治ごっこならこれでいい
何かが引っかかる紫
引っかかってるのは美しいも同じ、なので取引
希望は通る
隙間で他の妖怪のところへ
もう隠す気ない

二日目
早起きが妖怪と巫女目撃
弾幕の雨が降り出す
美しいが見惚れる
巫女=ピエロに力を貰う
生来の妖力を消しまくり体調不良、無視して進む嘘つき
ピエロ事切れる
妖怪側に近づきごっこ遊びを提案、退治後で死にかけの妖怪に話を聞く
手当はするよ、話聞けないと困るし
まずは人間と妖怪の関係から
人間殺しを手引きする代わりにあなた達を退治したい、他の妖怪のところまで案内して
死にかけでこんなん聞かされる妖怪の身にもなれよ、キレるよ
騙して殺し切るわけじゃない、他の妖怪は健在なんでしょ、こんなにか弱い人間が妖怪を殺せるわけないだろう
殺せないけど、悪い妖怪の退治はしてみたい
遊びましょ、妖怪さん
妖怪視点だと怪しいが、命乞いの別バージョンと考えれば納得はできる
苦労して外から呼び込んだ人間たちだ、たとえ巫女が邪魔してても確実に食いたい
こいつは八人の中にいたし、嘘は言ってない
だから怖いが
とりあえず他の妖怪のもとへ
群れてるわけじゃないが、同じ目的のやつは知ってる
そのうちの一人が迷い込ませたのを、みんなで分けて食ってるわけだし
ここも一瞬引っかかるけど無視する嘘つき
結局は契約成立

「……あ」

 七日目の夜明け前。眠れずに洋館の広間を彷徨いていたボクの前を、大荷物を持ったサグリが横切った。
 何をしているのかと聞いたら、彼はばつが悪そうに話しだした。家出をするのだという。昨日の夜、ケイとメイが悩んでいた。その内容を聞いてみれば、森の終わりが見えないことに不安を抱いているという。それなら自分が遠くを見てこよう、一人ならすぐに帰ってこれる、そう申し出たものの、すげなく断られたらしい。二人の態度に納得できなかったサグリは、今から一人で行くつもりだったそうだ。

待ってキスメ使い魔使ってないじゃんん
このままだと退治の実例が無いから、本当の退治というものを経験しないままになってしまう
ここで使い魔を使い果たしたとか、呼び出すのが怖くなったとか

退治は生きてないとできないだろうか?
跡形もなく消すということ、それが本当に退治であるのなら、別に死体を跡形もなく潰してしまったって退治になるはず
生きている妖怪に巫女がぶつかって殺すというのが大事なのかもしれない。

「不思議だった……からね。……今日もアサが湖に散歩に来てた。なのにボクに気付いてない……みたいだった。じゃあ、誰か……他にいるんじゃないかと、思ったんだ」
「賢いね。殺す」

「……何だ。巫女か?」
一旦はモブ妖怪のままで

 妖怪は憎々しげにそう言うと、爪をぎゅるりと再生させた。折れていた爪も、血が詰まっていた爪も、関係なく抜け落ち、また武器が生え揃う。

「いや違うよ。違うけれど、やりたい事は同じだ」
「そうかい。じゃあ退治屋か……こんな辺境までご苦労なこった」

「別に退治専門じゃないよ」
「……僧侶」
「他のだ」
「魔道士」
「誤解だよ」
「宣教師」
「この十字はお守りだ」
「……じゃあ誰だってんだ。テメェ」

 にこやか

「初めまして。ボクはレン。正直村のレンだ」
「!」
どれでも無いし、ただのレン
だったら特に力は持ってないと聞いてるし、退治なんてただの嘘だと思った
実際力は全然感じないし、ただ殺せないだけ
もうボコボコにして連れ帰る程度にすればいいんでない?
正直村ってこと聞いてなかったのか?

 ボクが名乗ると、妖怪は一瞬体を強張らせた。

「……運が悪いな。質問を変えてやる。何をするつもりだ?」
「さっき言い当てていたよ。退治だ」
「それにしちゃ悠長じゃねえか。どこに退治相手とべらべら喋ってる……のがいんだよ」
「聞きたいことがまだあるからね。ねえ、えっと、狼人間。サグリの首を切ったのは君だね?」

「ああそうだ。あの野郎、一切警戒心が無かった。こっちが弾幕出してんのに気付いてないのかってほどにな。それでこっちも警戒するのが馬鹿らしくなっちまったから、一息に首を飛ばしてやったんだ。外の人間だって聞いたから柄にもなく小手調べしてやったってのによ。全く拍子抜けだ」
「そうか、そうか。じゃあ次だ。君らの仲間は、同じように人を殺したことはないのかい?」

「それがねぇのさ。人を殺せば、こんなふうに本気の巫女がやってきやがるからな。だから俺達は普段人間の感情を食ってたんだ。けど今日は違う、上手くやりゃ巫女にもバレないように人が食えるって話だった。まさか肝心の巫女がこんなに早く気づいて、しかも俺でも殺せるほど弱えたあ思ってもみなかったがよ」
「なるほど。じゃあ、今退治できるのは、君だけなんだね」
「……あいつらを庇うってわけじゃねえが。まあそうだな。他のはわざわざ退治されるほどのことはしてねえよ」
「うん、うん。良く分かったよ。ありがとう」

「じゃあ、退治するよ」
「ああ。やってみろよ……」

 僕は妖怪に近づいた。慣れた山道を歩くような気軽さで、一歩、一歩。
 そして目の前に立ち、拳を振り上げる。

「……幣じゃねえのかよ」

 妖怪が起き上がり、爪を振り抜く。狙いは首だ。何となくそう感じ、体をひねる。体を掠めていく爪を見ながら、その捻りのままにボクは妖怪の顔を蹴り飛ばした。

 吹き飛び、立て直し

「……そうか……そうかそうか! あいつが弱かっただけだ! ああクソッ、契約違反だが仕方ねえなあ! 死ぬまで付き合えよ、レン!」
「え、嫌だ」
「あぁ!? 何でだよ!」

「だってもう、退治は終わったじゃん。
やべっ、ここで妖怪特有の退治弱点が出るんだ
ルーミアの弱点って何? 光?
キスメだったら桶破壊だが。この弱点ぶち抜いたら普通に殺されるのでは……

彼女が最後に落ちていった誰かを睨んでいる。そこにいたのは怪物だった。爪は鋭く、毛皮は分厚く、人の顔があるはずの場所は、ギラギラと閃く牙がマズルに沿って並んでいる。その怪物は体中に大きな傷がついており、その全てからどくどくと血が溢れ出している状態で、地面に転がっていた。きっとあれが妖怪なのだろう。

「じゃあ、退治したいんだけど。どうやったらあの帽子の子みたいな玉が出てくるんだい?」
「それはな……って言わねえよ! つーか、お前それすら知らずに退治するつもりだったのか!?」
「頼まれたからね。あれがないと、あの子みたいに完全に消滅させる事は難しそうだけれど……うーん。良い提案はあるかい?」

「……た、退治しない」
「それは無理だ。約束だから」
「別の奴を身代わりに……」
「君が殺したんだろ? 押し付けは良くないよ」
「退治したことにする!」
「それは……」

「……

せっかくパターンを見切る目を手に入れたのに、前の人間に沿うばかりでいいんだろうか

取引がしたいんだけれど、上の人に会わせてくれるかい」

「……本当に退治屋じゃねえんだな。そんな目的なら

帽子の子が岩に凭れていた。

 それはひどい有様だった。内臓まで切られた腹は言うに及ばず、俯いた顔には深々と傷が刻まれ、削がれた頬から白い歯を覗かせている。地面に力なく垂れた右袖には厚みが無く、代わりにどくどくと溢れる血が池を作っていた。星がついた帽子が頭から滑り落ちた。さっきのサグリと同じだ、もうボクにできることは何もない。ボクは湖の向こうへ落ちた方に近寄ろうとした。

「……」

 不意に視界が揺れた。
 じわじわと頭の中心に熱が集まる感じがする。痛みが反響しているみたいに大きくなっていく。呼吸は酷く荒くなり、自分の鼓動の音だけが耳鳴りのように煩く響く。ボクはただ、ここを離れようと脚を動かす。けれど動けなかった、腕が何かに掴まれている。狭まった視野でその出処を見た。

 それは帽子の子だった。残った左腕がボクの腕を握り潰さんとばかりに強く掴んでいる。触れられている場所はまるで五寸釘の筵を巻かれたような感触で、この体調を生み出している原因だと考えるには十分だったんだ。引き剥がすためにボクはその腕を本気で蹴った。見たこともない方向に曲がった腕は、それでも握るのをやめなかった。痛みが増していく。目が熱い。

「――――ごめんね」

 帽子の子は、そう呟いたのだろうか。目も耳も馬鹿になった今のボクには、その意味を受け取っても疑わしいままだった。

 釘が解ける。少しだけマシになった体調が、ボクの行動を許して《《やっている》》気がした。支えを失った体がよろめく。倒れないように一歩踏み出した。

 途端、つま先から頭まで大きな針が貫いたようだったんだ。そこに縫い留められたような錯覚を起こして、ボクはしばらく動けなくなった。代わりに思考が回る。

 もう帰ろう。体が痛い。まっすぐ歩くこともこなせない。何なら、ここで少し休んでいけばいい。朝靄がかったこの湖の空気が、熱った身体を癒やしている。ボクはそれに従いたかった。ここで寝転んでしまえば、ざっと十六時間程は泥のように眠りこけられる。そんなことはどうでもいい。ともすれば今日の出来事はすべて夢かもしれない。思えば昨日の夜からボクは眠っていないのだ、今倒れても不思議じゃない。十分に休んで、それからまたいつもの気楽な生活に戻ればいい。戻れれば、それだけで良かった。

 けれど――ボクは、その一切を無視した。

「……ああ」

 生まれ変わったような気分だった。体中の痛みを、昂揚感が打ち消す。体はどこまでも軽く、空を飛んでいけるようにさえ思えた。湖の向こうを見る。

 そこに倒れていたのは怪物だった。爪は鋭く、毛皮は分厚く、人の顔があるはずの場所は、ギラギラと閃く牙がマズルに沿って並んでいる。その怪物の体は紫に変色している箇所もあれば、何十本もの針が固まって刺さっている箇所もある。片目に貼り付いた札が妖しく光っていた。

「……何だ。巫女か?」

 怪物は憎々しげにそう言うと、爪をぎゅるりと再生させた。折れていた爪も、血が詰まっていた爪も、関係なく抜け落ち、また武器が生え揃う。

「いや違うよ」
「じゃあ誰だ」
「おや。君だと思ったんだけど、まあいいや。初めまして。ボクはレン。正直村のレンだ」
「!」

 ボクが名乗ると、怪物は一瞬体を強張らせた。

「……そうかい。質問を変えてやる。何をするつもりだ?」
「治療」
「は?」

 帽子の子の場所に戻り、

「……おいお前。爪を伸ばし直したのを見てないのか? それともその意味が分からないのか?」
「意味はわかるよ。武器を用意した。それだけだ」

 懐からいつも持っているナイフを取り出す。そのまま彼女の遺体からザクザクといくつか布をとって、細長い包帯を作った。ナイフをしまい、怪物の場所に戻る。

「それの意味だ。……近寄るなって事だ。お前、人間だろう。妖怪は人間を食うもんなんだよ。それを助ければどうなるかわかるか?」
「知ってるよ。助けた人間は話を聞いてくれるんだ」
「今俺が伝えたいこと一切全部無視したよな? おい? 聞いてんのか?」

 包帯巻き

「がっ!? おまっ、っ|痛《て》ぇ! これ包帯か!? 嘘ついてねぇか!?」
「当たり前じゃないか。ボクは今まで一度も嘘をついたことがなかったんだ」
「それこれ嘘って意味じゃ、があああああ!!」

巻き終わり
うるせえ

「これでよし。元気になっただろう」
「……殺す……腹掻っ捌いて……できるだけ長く……」

ぶつくさ

「さて、話を聞いてくれよ。ボクはここまでの出来事が全く分からない。サグリの首を誰が飛ばしたのか、あの帽子の子は何で君と戦っていたのか。君は妖怪って話だけど、妖怪なんてのもボクは聞いたことがないんだ。教えてくれるかい?」
「……誰が言うか」

クソが、食えねえじゃねえか」
「食べられない? そうだね。ボクは食べ物じゃないもの」
「はっ、何にも知らねえたあな。外の世界ってのは妖怪のことも教えねえ世間知らずの集まりなんだなぁ?」
「?? 何だか知らないけど、まあそうなるんだろうね。実際ボクは君を知らない。良ければ教えてくれるかい」
「ほお! ご教授が望みたあな! いいぜ教えてやる、俺たちは――」
「そこまで」

 森の中から、声が聞こえた。見るとそこには、紫の服を着てナイトキャップを被った少女が、フリルのついた傘をさして歩いている。彼女の指はすらりと長く、まるで苦労を知らないように見えた。

「何をやっているのかしら? 私の能力はそう長続きしないって、ちゃんと伝えたでしょ。終わったらさっさと帰ってきなさい」
「ああん? 図々しく出てきて説教か? 下んねえ。そういうのは自分の仕事きっちり果たしてからにしろよ」
「何の話かしら? 誰のお陰で上手く行ったのか分からないみたいね。途中まで早起きな子に見られていても何とかなったのも、博麗の巫女に退治されて命があるのもみんな……」
「あれ」
「どれ?」

「……

目ン玉付いてんだテメェ。脚が治ってねぇのが見えねえのかよ!」
「見えてるわよ。ついでにそんなに叫ぶ元気があるのも。分かったら黙って治しなさい、それとも運んで欲しいのかしら」
「…………クソ共が!」

「だったらこの子と話すために喉を治してる暇があるのかしら」

「騙して食うつもりだったんだよ! 怪我なんざ人間食えばすぐ治るからな、そしたらこいつ、正直村のレンだって言うじゃねえかよ! 期待外して落ち込んでんのはこっちだ!」
「レン? ……うわあ」

 

 帽子の子の場所に戻り、懐からいつも持っているナイフを取り出す。そのまま彼女の遺体からザクザクといくつか布をとって、細長い包帯を作った。ナイフをしまい、怪物の場所に戻る。

「……馬鹿なのかお前? 俺は妖怪だ。人間を食う妖怪だぞ。手負いの俺にとって何が一番欲しいかわかるか?」
「へえ。君、妖怪って言うのか。知らなかったよ。だから欲しいものも分からない。良かったら、教えてくれ」
「……あとな、もう一個言っとくがな。お前今巫女の服から作っただろそれ。俺達妖怪は霊力が籠もったもんに触れると痛むんだ。巫女の服が霊力纏ってないと思……纏ってんだよ。だから助けるつもりなら今すぐやめろ」
「助けるつもりだよ。だからやめないんじゃないか」

 

建前だとか、予想だとか、そんなものじゃない。
ボクはボクの願いを無視した。嘘をついたのだ。

最も美しいボクは、

「……あなた、は」

 それはさっきの帽子の子だった。右腕は既に無く、そこからとめどなく大量の血が流れ出ていた。帽子は近くに落ちている。ボクは何が起きているのかと聞いた。

「妖怪……退治、よ。人間を害した妖怪は……巫女が退治しなきゃ、いけないの。それがここの規律」

 彼女は左腕一本で体を起こしていた。ボクが手を貸すと一瞬躊躇ってから借りて立ち上がった。けれどすぐにまた膝をつく。

「けど……私、もう駄目みたいね。あーあ……まだ残ってるのに」

 彼女が最後に落ちていった誰かを睨んでいる。そこにいたのは怪物だった。爪は鋭く、毛皮は分厚く、人の顔があるはずの場所は、ギラギラと閃く牙がマズルに沿って並んでいる。その怪物は体中に大きな傷がついており、その全てからどくどくと血が溢れ出している状態で、地面に転がっていた。

「……ねえ。あんた、生きたい?」

 ボクは正直に答えた。

「そ。……じゃ、これあげる」

「……ねえ。あんた、この後暇?」

 暇かどうかというと、確かに暇だった。生活は満ち足りている。仕事についても、サグリが誰かに――おそらくは、あの妖怪の手にかかって死んだことを伝える。それくらいだ。少し遅くなっても、問題ない。

「ならさ……これ、あげるわ」

 繋いだ手を放し、懐から一枚の札を取り出す。書いてある内容は分からない。ボクにとってはただ、複雑な模様が描かれた紙であるとしか思えなかった。

「……あん? 誰だ……お前」

 知らない人間だった。
 いや、人ですらない。怪物だ。爪は鋭く、耳は大きく、人の顔があるはずの場所は、ギラギラと閃く牙がマズルに沿って並んでいる。その怪物は体中に大きな傷がついており、その全てからどくどくと血が溢れ出している状態で、地面に転がっていた。

「よく、見えねえな……まあいい。お前が妖怪ならとっとと逃げろ。人間だとしても大サービスだ。今は襲わないでいてやる……」

 掠れ声で怪物が呟く。けれど逃げると言っても何から? ボクがそう尋ねると、怪物はゆっくりと腕を持ち上げ、ボクの後ろを指さした。振り返ってもそこには何も居ないように見えた。

「……なんてなァ」

 声が聞こえた。その頃には、ボクの体は怪物の影の下に居たのだ。怪物が飛びかかってきている、今度は間に合ったその気付きに、しかし身体がついていかなかった。僅かに体勢を崩すだけで、他に何もできない。首に鋭い痛みを感じた。

「――がっ!?」

 けれど、それで十分だったのだろう。朝靄の向こうから、目にも止まらぬ早さで棒が飛んできて、怪物を森の木まで弾き飛ばした。棒の先には唐紅に滲んだ紙が括られていた。ほんの少しずれていれば、ボクがあの棒に殴られていたところだった。
 棒の通った道は、朝靄が払われて遠くが見通せるようになっていた。見ればそこには、さっきの帽子の子が岩に凭れて項垂れている。その体には右腕が無かった。

「ってぇぇえ……! 死に損ないの雑魚巫女が、無駄な真似しやがって! けど耐えた! こいつは、俺の食い物だ!」

 木に叩きつけられた怪物が、ゆっくりとこちらに来ていた。大きな傷も、靄が染まるほどの血も、まるで意に介さずに。立ち上がった怪物は八尺を優に超えている、人が相手できる怪物ではない、ボクはすぐさま帽子の子の方へと逃げ去っていったのだ。すれ違いざま、帽子の子が何か言っているような気がした。けれど気にしている場合じゃなかった。平坦なうちに距離を稼ごうと、ボクは脚に力を込めた。

 

二日目
早起きが妖怪と巫女目撃
弾幕の雨が降り出す
美しいが見惚れる
巫女=ピエロに力を貰う
生来の妖力を消しまくり体調不良、無視して進む嘘つき
ピエロ事切れる
妖怪側に近づきごっこ遊びを提案、退治後で死にかけの妖怪に話を聞く
手当はするよ、話聞けないと困るし
まずは人間と妖怪の関係から
人間殺しを手引きする代わりにあなた達を退治したい、他の妖怪のところまで案内して
死にかけでこんなん聞かされる妖怪の身にもなれよ、キレるよ
騙して殺し切るわけじゃない、他の妖怪は健在なんでしょ、こんなにか弱い人間が妖怪を殺せるわけないだろう
殺せないけど、悪い妖怪の退治はしてみたい
遊びましょ、妖怪さん
妖怪視点だと怪しいが、命乞いの別バージョンと考えれば納得はできる
苦労して外から呼び込んだ人間たちだ、たとえ巫女が邪魔してても確実に食いたい
こいつは八人の中にいたし、嘘は言ってない
だから怖いが
とりあえず他の妖怪のもとへ
群れてるわけじゃないが、同じ目的のやつは知ってる
そのうちの一人が迷い込ませたのを、みんなで分けて食ってるわけだし
ここも一瞬引っかかるけど無視する嘘つき
結局は契約成立
アリスとかいう外様の鶴の一声
魔界の令嬢とかでちやほやされやがって
でも廃洋館貸出したのこいつだから……
連れてきてくれたやつはもう退治済みなので殴りません

美しいが急変したのはパターンマッチングの力を手に入れたから
特定のパターンの表出を探す力じゃなく、パターンそのものを探す力
それで妖怪の弱点みたいなのが見えたので退治ごっこへ
それマッチングというかリーディングかファインディングか
元々のパターンを満たしていくのを楽しむ程度の能力みたいなのと、人間を害した妖怪を退治するという幻想郷の掟が合わさってやべーことに
元々はパターン探し、プラン建てがクソだった

もとの博麗はこれを十二分に引き出す事ができなかったので、退治に際して完全消滅を選ぶことしかできなかった
美しいはこれが唯一絶対正しい退治の方法だと思ってるし、何にでも効く最終手段なので実際そう
なので自身の妖怪の弱点を満たしていくやり方は退治ごっこということにしてる
えっ、何で殴ったか? あそこの奴ら弱すぎて弱点ないし……全身ヘッドショット判定みたいなもんだし……

美しいがいくら急変しても、付き合いのあった人間を殺してまでパターン照合を楽しみたくなるものなのか? そこがわかんねえから狂人といえばそれまでだが、なら今までよくパターン照合を我慢できたなって。狂人化前の会話はインとのラブコメ、寝る前の夜会話、サグリ出発前、死にかけの巫女だが。
ラブコメは勘違い、夜会話はまんまパターン、サグリ出発は翡翠を適当に。死にかけの巫女だけ微妙。人の死みたいな勘違ったらマズいものでパターンに沿うといえばもう普通に相手を助けるしかないが。ところがここで巫女を助けるとなんで付き合いのあった人間たちは普通に殺してオッケーになるのか全然分からん。人を助けるパターンと妖怪を退治するパターンがかち合ってなんで退治側勝ってるの? 目の前にいるかどうか? いやあ幼いの時点で助けられた命だったよ。人を助けるパターンはもうやったから、妖怪を退治するパターンやり始めた。近そうだが妖怪退治パターンあとでまた紅魔館でやることになるから。先約。それなら一生人は助けないよ。パターンの空き状況。妖怪退治パターンはそんな長くない。
そういやこのあと退治されパターンをやるわけだが。自分が妖怪かつ巫女だから問題ないか。
やっぱそもそも手後れなくらいに巫女が死んでくれないと、救助パターンに引っかかってしまう。ところがそうすると妖怪退治の原則とか誰も教えてくれない。

退治パターンは完全消滅から退治ごっこに移行したのに、退治されごっことかのパターンは続くのは条件が満たせそうだったからか。

妖怪のキャラが立ちすぎてきた。なんかいないか、原作で五百年前にもいて好戦的でおしゃべりで切るのがメインで首切りもしくは一撃死を狙いそうなやつ。
土蜘蛛は退治済み。平家物語と同時でも1309年だから全然足りない。天邪鬼は息ぴったりなんだがこいつ刀とか持たないしそもそも紫主導のこんなイベント参加しない。切ると言えば妖夢だが人間切る理由なし。ルーミアフリー素材は……いそうではあるが。ただあいつ雑魚妖怪にはとても見えないし、闇はどうした、闇は。勁牙組長は道具に頼らない。
残忍首刈りといえばキスメだけどこいつ井戸で待ち伏せるタイプだから人里近くにいるだろうし、森にぽつんと井戸があってサグリが近づいたとかなら説明はつくけど、待ち伏せタイプがなんで湖の上まで引きずり出されて正面撃ち合いしてんだってなるし。
ああでも一応木の上から落ちればいけるのか? そこから一撃で桶破壊されてからの。でもコイツおしゃべりじゃないんだよな……二次創作の風見幽香レベルで言いたいことがあるなら殺し合えみたいなノリあるからな……これで紫の掌に乗るかと言われると。人を殺せるなら何でもいいのか。微妙だけど、何かとコンビ組んでたらいけるか?この蓬莱の玉の枝差し出してるこいつとコンビ。そしたらそっちの方だけ博麗がぶち殺す流れになるが。あと釣瓶火にも釣瓶落としにもコンビっぽい伝承がない。釣瓶落としのpixivだと雨の日に木から落ちる火で三属性ってあるので、残りの土と金を示すやつがいれば、それ土蜘蛛では? これもうモブでいいや、桶作ってくれるモブ。

あとそんなネームド好戦的が強い冴月について来ない理由あるんだろうか? 一匹一人が契約条件じゃないと妖怪側が殺されるくらいに雑魚あるいは食い扶持足りないからこうしてるんだけど、すると既にサグリを食べたこいつは責任解放してるわけだからついてきてもおかしかねえんだ。もしルーミアだったら人生の目標すら何もねーし。ルーミアの札、この地にルーミアを縛るため説。
ああ、紅魔館行きのチケットを見つけるくらいは……するか? それとルーミアのこの地縛り+白痴化なら分かりやすいくらいのデメリットだが、ルーミアがそこまでする理由あるかこいつ?

リグル。あいつは蛍なんで刃物ないんですよ。
チルノ。切るより凍死のほうが早いんすよ。
ミスティア。雀に何を期待した。
アリス。むしろ必殺仕事人で首を吊らせそう。
影狼、お前が頼りだ。

与太話だよ。
境界の妖怪が、長い時間をかけて作り出したのが博麗の力だ。
名のある妖怪でもない限り釣り合わない、消されるのがオチだよ。

「封魔針」

 視界の下から、何かが飛んでくる。怪物の手がそれに当たり、原型を留めない程度に弾け飛んだ。射出点を見る。

 それはさっきの帽子の子だった。左腕は既に無く、そこからとめどなく大量の血が流れ出ていた。それでも彼女は右腕一本で、体を地面に引き摺りながらこちらにじわじわと近づいている。

「やっと……お相子ね」
「けっ……化物巫女が」

 

「パスウェイジョンニードル」

 ――咄嗟に、木の後ろに隠れた。
 何かが飛んで来ている。

「あん? 何だテメェ」

 ――それは、人影だった。
 元々は人だったと分かるだけ。

 首を失くした肉塊に、背嚢が引っかかっていた。

「まさかたかりに来たのか。オイオイ勘弁してくれよ、こういうことになんねーようにあのうさんくせーの仲間にしたってのによお。それとも、アレの能力も抜いて来たのか? だったら褒めるけどよ」

 それに向かい合って、人の形をした何かが喋っている。
 口元には赤い液体と、脂ぎった塊。

「……なんか言えよ。あーくそ、面倒臭ぇ。肉やるからさっさと出てけ。誰かに言うんじゃねえぞ、お前が最初だからやるんだ。次別の来たってやんねーからな」

 ぐちっ、と音を立て、その人形は肉塊を軽々切り裂いた。切断された右肩から背嚢が外れ落ちる。辛うじて皮一枚残った右腕を引き千切り、人形がボクに差し出す。鉄の匂いが鼻腔に満ちた。

「おい。貰うか逃げるかどっちかにしろよ。あんまモタモタしてらんねーんだ、怖い巫女さんが来ちまうからな」

 ボクの手を小突くように、右腕をさらに押し出す人形。それを見ても、ボクは何も言えなかったし、何も出来なかった。目の前で何が起きているのだろう。

「……ったく、人襲いの初心者か。なら単に迷い込んだって奴かよ。あー、かったりぃ」

 

「人間に対する乱暴狼藉……この私が見逃しはしないっ! 只今参上、博麗の巫女! 今からお前をぶち殺す!」

「あーもう! 来やがったか! おいお前! 危ねえから木の後ろにでも隠れてろ!」

初日のような、覚束ない足取りじゃない。木の根の生え方をずっと見て、それから自分の走り方とずっと照らし合わせていた。どこをどう走れば躓かないか、体に負担がかからないか、そういうことはとっくにわかっていた。サグリの走り方を見ていて、やり方はもう知っていた。

 ふと、そういえば上流に向かう用事があったことを思い出した。上流の方が蟹は多い。アサが蟹を食べたいから取りに行きたいと言っていた。最も早起きな彼のことだ、そろそろ目を覚ます頃だろう。ボクはサグリに途中までついていく、準備するから少し待ってと言った。サグリは力強く承諾した。

「……僕より早いなんて。君ら、いつ寝てるんだ?」

 サグリは森の木の上で寝たと返して疑われていた。
 ボクは寝てない、と返したら怒られた。解せない。

 早朝の森はひんやりとした空気に満ちていて、今が八月であることを忘れそうになる。よく見れば薄い靄がかかっていて、まるで昼間とは別の場所に来たようだった。少し進むと、不自然に倒れた草が見つかる。前に川を散策したときについた道だった。その場所を選んで進む。

「それにしても、随分遅かったね。僕に挨拶してから……五日か。誰で時間かかったの……って、まあ言わなくても分かるけど」
「そりゃあメイとケイだよ。あの二人はどうも僕を信頼してくれないんだ。結局本を見つけてくるって約束と、メイを説得したって情報でようやくだった」
「案外あっさりしてるなあ」
「結果はね」