up:: 蓬莱人形フランドール説第一稿一話
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「まだ見えないのかな」

 暗闇の中で、あの子がそう呟いたのを聞いた。その声は小さく震えている。

「なんだよ、イン。怖いのか?」
「当たり前じゃないか。ここは桃の木の下だよ。急に土が崩れて、桃の木が落ちてきたらどうするのさ」
「遺書は書いた。問題ない」
「それで済むのはあんただけだ、ロウ。土砂崩れの心配はない。むしろ木が支えてる分強固だ」
「そうなんだ。よかった」

 ボクら八人は、桃の木の脇に見つけた穴に潜ることにしたんだ。入り口はそれほど広くなく、二人も横に並べばすっかり埋めてしまえるほどだった。その代わり奥は長く、先は見通せない。ボクは心の中でこの穴を『ヘビの口』と命名した。

「あー、向こう側はどうなってるのかなあ。着いたら何しよっかなあ」
「まずは食料の確保に、拠点作りだ。何がいるか分からないんだ、やる事はいくらでもある」
「夢がないなあ」
「ふかふかの毛布が欲しいな。なあ、ケイ。拠点には寝る場所が必要だよな」
「……毛皮を探すためなら、辺りを調査してもいい」
「やったー!」

 歩くたび、ランタンが揺れる。その度光も揺れ、壁一面の奇妙な縞模様が明滅する。やがて出口の光が見えてきた――何かに遮られているんだろうか? 不揃いな明かりがボクらを照らしている。

「ここが……」

 出口は小高い丘の上にあった。穴を覆っていた桜の根を払うと、下の様子がよく見える。そこには見渡す限りの森があった。ここから見えるのは、それと山だけだ。

「おお。果実の成る木もある」
「桜はここだけか。どうなっている」
「また森? 里ぐらいはあると思ったんだけど」
「えっと、次は何しようか」
「草枕はしたくないなあ」
「とにかく皆、離れるなよ。ここは一丸になって行動を」
「新世界だー!」

 ケイの呼び掛けを待たずに、サグリが飛び出した。きっと何を言っても無駄だ、サグリはボクらの中で最も好奇心が高いのだから。そう思ったボクは、その後を付いていくことにした。深い草むらがガサガサと音を立てる。

「おい! ……仕方ない。皆、二人を追いかけよう」

 皆もサグリに続くことにしたらしい。ボクの後ろでざくざくと六人分の足音がしたと思えば、すぐに横に並んだ。ボクが遅いわけではない、地面が木の根で凸凹しているのが問題なのだ。

「全く、体力無いな君は。ロウ。印を残すから、後から付いてきてくれ」
「分かった。ただ三人じゃ心もとない。誰かもう一人欲しい」
「三? ああ、そうか」

 横を見ていると、急にボクの足が止まった。それが根に躓いたからだと気づいたのは、すんでのところで手を取られ支えられてからだった。手の主を見る。礼を言う。

「き、気にしないでよ。僕に出来るのはこれくらいなんだからさ」
「いや、礼は必要だ。これはインがずっと君を見ていたからこそ助けられたんだからね」
「ロウ!? 違っ、僕はそういうわけじゃ……!」

 あたふたと慌てるインに、ボクはもう一度礼を言った。ロウはボクが礼を言っていたところを見ていなかったから、必要だと思ったのだろう。最も大人びていると呼ばれていても、間違いは生じるものだ。それなら改めて見せればいい。時間が経ち、さっきより体の強張りが解けた。口元も力が抜けて少し緩む。

「〜〜〜っ!」
「ドウ。僕の後ろで喋らないでくれ。誤解が生じる」
「いーだろ、これくらい。何だかあの二人見てると苛々するんだ」
「……それは後で聞いてあげるよ」

 インは二人に背を向けるように、サグリの向かった方へと駆け出した。繋いだままの手に引かれるように、ボクも駆け出す。この早さで躓けば大怪我だ。今や命綱になったその手をぐっと握り返した。どくどくと脈打つ鼓動を少しだけ感じた。

「は、早く皆のとこに戻ろう! 行こっ、レン!」

 転ばないでくれよ、と後ろからロウの声が聞こえた。

 草をかき分けると、開けた場所に出た。そこで四人が立ち止まっているのが見えた。

「君は想像力にかけている。罠に落とそうと思えばわけはない。たとえ罠から抜け出したとしても、帰る場所がないままどうするつもりだったんだ? あの桜の木にでも戻るつもりだったのか? 確かに小高い丘ならすぐに見つけられるだろうね、君も、敵も」
「う〜、誰か助けて〜」

 正確に言えばサグリだけは地面に正座して、ケイに説教を受けているようだった。そしてメイとアサはそれに目もくれず、その隣にある廃洋館を見上げている。

「……調べないの?」
「うわぁ!?」
「追いついたか。……人の気配はしない。鍵はかかっていなかった。なら、八人で一斉に調べたほうが早く安全だよ。

中を調べないのかと聞くと、目を見開いてボクから一歩引いた。驚かせないでくれと頼まれた。

 一通り調べ、ボクらはここに住むことに決めた。壁や窓は所々壊れているものの、十分使える場所だ。これを見つけたサグリを皆が褒めていた。ケイもその功績だけは認めていた。

 部屋は恐ろしく沢山あった。一人に三部屋与えてもまだ余る。もっとも使える寝具はそれほど多くなかったので、ボクらはそれぞれ自分の眠る部屋を一つだけ決め、荷物を下ろした。壁を壊して一つの大部屋でみんな眠る案もあった。僕らは強盗じゃないからとドウが却下した。
 そして皆で広間と食堂の掃除を始めた。共有の場所は皆で責任を持つ。誰が言い出した訳でもないけれど、それはボクらが持つ規範だった。瓦礫を外に集め、埃を掃き出す。地道な作業を終え、綺麗な床で部屋が覆われた頃には、その成果が見えない程に暗くなっていた。
 綺麗になったのは、その二つの部屋だけ。仕方なく、その日は広間に寝具を持ち寄って皆で眠った。これからの展望だとか、昨日の小さな失敗だとか、自分の中での大きな発見だとか、そんなことを話していると皆寝静まっていった。天井に小さく開いた穴から名前も知らない星が見えた。

 そうして一週間も経っただろうか。

一日目
盗賊団、日本で不明年、東の山へ移り住み二年
桃の木の下の通路を見つけ突入
インが怖がる、桃の木が落ちてこないか
遺書を書いたから大丈夫、セン

廃洋館発見、好奇心が装備身につけて遊びに出る
明日のパーティまでには帰る
妖怪が好奇心殺す

正直村という名前の盗賊団がいます。彼らは生涯で一度も嘘をついたことがなく、ここ二年の間では罪を犯していません。彼らは八人で構成されており、それぞれ好奇心旺盛、幼い、美しい、臆病者、聡明、大人びている、警戒心が強い、早起きという特徴があります。彼らに日本の名字の中から選んで名字をつけてください。

ただし、できるだけ日本の名前でもよく使われる文字を使ってください。また、最後は「ン」で終わってはいけません。

中国の名字かつ、もっと日本の名前によく使われる文字で、特徴を活かした名字をつけてみてください。彼らの特徴をより詳しく書きます。
好奇心旺盛:遊びが大好きで、正直村の先頭に立つことが多い。
幼い:少し引っ込み思案で、周りの空気に合わせるのがうまい。
美しい:正直村唯一の女性で、パターンを見つけて沿うのが得意。
臆病者:臆病な自分を嫌うあまり、二重人格を患っている。
聡明:正直村の頭脳。盗みの計画は彼が立てている。
大人びている:珈琲が好き。正直村のまとめ役。
警戒心が強い:状況に対する対応が早い。感覚派。
早起き:一般人。ハムエッグが好き。

好奇心旺盛:探検家(たんけんか)
幼い:子猫(こねこ)
美しい:花嫁(はなよめ)
臆病者:隠れ家(かくれが)
聡明:天才(てんさい)
大人びている:先生(せんせい)
警戒心が強い:番犬(ばんけん)
早起き:朝日(あさひ)

好奇心旺盛:タン(tan)
幼い:ココ(coco)
美しい:ハナ(hana)
臆病者:カク(kaku)
聡明:テン(ten)
大人びている:セイ(sei)
警戒心が強い:バン(ban)
早起き:アサ(asa)

好奇心旺盛:探究(たんきゅう)
幼い:小宮山(こみやま)
美しい:花井川(はないかわ)
臆病者:隠岐島(おきしま)
聡明:天野原(あまのはら)
大人びている:先崎田(せんざきだ)
警戒心が強い:番場谷口(ばんばやぐち)
早起き:

好奇心旺盛:探(タン)
幼い:童(トン)
美しい:蓮(リエン)
臆病者:隠(イン)
聡明:天(ティエン)
大人びている:先(シェン)
警戒心が強い:番(パン)
早起き: 朝(チャオ)

警戒心が強い:高(ガオ)警(ケイ)

尋、問
若、幼
怖、恐、逃
智、聡、明
成、熟、老

サグリ
ドウ
レン
イン
メイ
ロウ
ケイ
アサ

それでもボクらは好奇心に負けて先に行ってしまったサグリを追いかけ、急いで全員分のランタンを用意して向かったんだ。ようやく追いついた頃には、もう出口の光が見えていた。何かに覆われているのだろう、微かで不揃いな明かりだった。

「今ここに入れだって。冗談だろ」

「うーん、暗くてよくわかんない
「サグリ!」

「この馬鹿が。洞窟がどれだけ恐ろしいか想像がつかないのか?」

「ケイは心配性だなあ。僕らはもう二年もこの山にいるんだ。洞窟だってこれが初めてじゃないのに」
「だからって、一人で行っていい場所じゃない。

洞穴の壁は一面に奇妙な縞を見せている。メイに聞くとこれは水や風で土が積み重なって出来たものらしい。
 それならよほど忙しい水だったんだな。なぜそう思う。だって、一つ一つの層がこんなにも薄いんだ。層が少し積み上がるたび、運ぶものが別に変わった。そういう事じゃないか。
 ボクの予想は否定されなかった。けれど肯定もされず、メイはそれきり深く考え込み始めてしまった。ここで逸れては困る。ボクは最後尾のロウにメイを運ぶよう頼んだ。抱え上げられたメイはそれにすら気づかないといった風でぶつぶつと何かを唱え続けていた。