有り得るはずもなかった。こんな場所に流れ着くなんて。あの人が見たらどんな反応をすることだか。私には何も分からない。分かるようにできているはずだったのに。

水中の話だ。私はブクブクと泡を吹きながら沈んでいく。底であってもまだ深くはなく、太陽の光がキラキラと海面を照らしている。透明度もやたらと高い。サンゴの間を駆け抜ける魚たちの姿もしっかりと見える。私は沈んていた廃墟の中へ向かった。

次は溶岩だった。暗く、深く、先ほどまでの光はなりを潜め、ただただ赤い光が、肌を焼き焦がすばかりの熱がこの場に満ちている。私はそれに耐えられない。もう何かを考えることすらできず、脱水症状のようにふらふらと歩き、そして私は火口へ落ちた。

次は雲間だ。ここの雲は踏めるようだ。水の塊が踏めるのなら、今の私は水上を歩けるのかもしれない。青々として宇宙すらも思わせる空と、地面として扱える雲と、その間から見える家々と、山と、海と、飛行ドローンや撮影ヘリでしか見たことない情景が私の目に直接なだれ込む。そして私は近づく入道雲には気づけなかった。頬を叩く横殴りの雨で気が付けば、光が私を貫いた。

王城だ。人5人は縦でも通れそうな天井の高さをしている。床は磨き抜かれたタイルの上に赤いカーペットがどこまでも敷かれている。天井はアーチが支えている。アーチは窓枠と一体化し、そして柱に手を伸ばしている。角からその奥を覗けば、その天井近くまである大きなドアが開け放たれたままになっていた。奥には兜を脱いだ騎士がずらりと並び、その先のすこし段を上ったところに金と赤で彩られた豪奢な椅子が一脚あった。そこに座った人形は項垂れていて顔を見ることは出来なかった。カーテンが開け放たれたのか、騎士たちに日が差し込む。すると人形はゆっくり腕を挙げ、それを指さした。その先を知る前に私は近くの部屋に逃げ込んだ。

下らない。私の部屋だ。ラックだけが付いた机、座高が変えられる動く椅子。参考書で埋められた本棚の横にまたラックがネジで止めてあり、そこにタブレットが放り込まれていた。ベッドには縄とフックが無造作に置かれていて、ベランダに続くテラスドアは開け放たれたままで、そこから17階の景色が地平線まで続いていて、ああ見飽きたものだと思った。だから私は下を覗き込んだのだ。けれど下から見るのと変わらなかった。

綺麗な物、美しい物、それを並べ立ててしまえば、いつかは私もきれいになれるのだと思っていた。私は要らない物じゃないと、知らないわけじゃないと思いたかった。それでもと言い続けていた。結局私は、いなくたって社会は回るのだ。それが出発点だった。

私以外が、
何を思って生きているか知らないくせに。